【真理子の部屋/日曜京都5R・2歳新馬】
 競馬に携わる方々を独自の感性で描き続けてきた赤城真理子記者。それらは「予想」というカテゴリーにとどまらない、ある種の〝物語〟といっていいのかもしれない。最前線で活躍する赤城記者がお届けする人馬のストーリーをぜひご堪能ください。

◆「馬に向き合う」

 厩舎の「攻め専」というお仕事は、どんな馬でも乗りこなせる馬乗りの技術の高さだけでなく、調教師さんと同じくらいに厩舎所属の馬全てを把握する記憶力、事務作業をする際の要領の良さ、また担当者と密(みつ)に情報を共有するためのコミュニケーション能力の高さ…と、いろいろな能力を求められる役職だなと感じます。

 番頭としてその週の出走馬の取材に対応してくださる方もたくさんいるのですが、こちらが馬の名前を出すだけで「前走は○○で…」「こんな癖を持っているから…」「このコースでは以前こういう競馬をしたから…」とよどみなくお話しされる様子には尊敬の念を覚えますし、〝すごいなぁ〟と毎回思います。

 角田厩舎にもそんな攻め専の方がお二人います。一人が元ジョッキーで障害GⅠ中山グランドジャンプも勝っている高野(こうの)容輔助手。そして、馬術の世界での経験もお持ちの西原智史助手です。お二人に取材をすると、いつだって厩舎所属の馬への愛を感じますし、きっと馬に乗ったことのある方にしか分からないような感覚、深い知識を何とか記者にも分かるように説明してくださるんです。私は今年の6月から角田厩舎の担当もさせていただくことになったのですが、高野助手、西原助手のおかげもあって、今ではすっかり角田厩舎の馬たちのファンです。

 高野助手については騎手時代からご存じの方が多いと思うので、今回は西原助手についてお話をさせてください。大阪ご出身だという西原助手は、トレセンとは全くご関係のない家庭で育ったそうですが、ご両親が競馬ファンだったということもあって、いつしか「騎手になりたい」と志すようになったそう。身長が伸びて体重制限も厳しくなったため、その道は諦めざるを得なかったようですが、馬の世界への憧れは消えることなく、16歳で超名門・杉谷乗馬クラブに就職されます。クラブの代表はオリンピックの馬術競技に3度も出場経験のある杉谷昌保さん。その息子さんである杉谷泰造さんも、計6度オリンピックに出場されています。

「最初のころは昌保先生から。しばらくしてからは、泰造さんにも馬術の技術、馬へのコンタクトの取り方などいろいろと教えていただきました」

 そこでのお仕事もすごくやりがいを感じていたという西原助手ですが、「やはり現役の競走馬に乗ってみたい」との思いはずっと心の奥底で燃えていました。5年間勤めあげた後にご自身の気持ちを相談された結果、背中を押してもらえたとのことで、宇治田原優駿ステーブルで1年間の牧場勤務をすることとなります。そして当時のJRA厩務員過程の受験資格を得ると見事合格。卒業後、角田厩舎へ入られたのが23歳の時だったそうです。

「(現攻め専の)高野さんに誘っていただきました。僕を引き受けてくださった角田先生には、とても感謝しています」

 そう言う西原助手が馬に乗る上で大切にされているのが、「馬の邪魔をしないこと。どんな子なのか理解して、合わせてあげること」だといいます。以前、厩舎の方が「西原はどんなに難しい馬でも涼しい顔で乗ってくる」とおっしゃっていました。そのことについてお聞きすると、「馬術でもそうなのですが、人間が怖がっていたら馬に伝わってしまいますからね。馬を不安にさせないようには気をつけています」と言います。

 落馬で背骨を折ったこともあるし、脳振とうで運ばれたこともあるという西原助手。そういう経験をトラウマにせず、馬の気持ち第一で乗っておられるんですね。

うるさい面を見せていた若駒が…

デビューを迎えるメイショウガイフウと角田厩舎・西原智史助手
デビューを迎えるメイショウガイフウと角田厩舎・西原智史助手

 そんな西原助手が一心に調教をつけてきた馬が、日曜京都5Rの2歳新馬戦(芝外1800メートル)でデビューを迎えるので、ここでご紹介させてください。その馬こそメイショウガイフウ(牡=父キズナ)。母のキンショーユキヒメは、私が記者になった当時に担当させてもらっていた中村均厩舎にいた馬です! ガイフウは今年の春に入厩していましたが、脚元に弱いところがあったため一旦放牧に出して成長が待たれていました。20〜30キロほど体重が増えてぐっと成長した姿で帰ってきましたが、当初はかなりうるさい面を見せていたようです。

「うるさかったですが、別に人間をナメているとか、悪いことをしてやろうとか、そういう感じはありませんでした。周りが気になって怖がっていたり、調教でテンションが上がってしまって自分でもどうしたらいいのか分からない感じ。なので、僕を信用してもらって、頼ってもらえるようになれたらと思ってやってきたつもりです」

 そう言って紹介してもらったメイショウガイフウは、うるさかったということが信じられないくらいに穏やかな雰囲気で、記者が近くに行っても全く気にせず、たそがれていました。西原助手はここまできっと苦労をされてきたんだと思いますが、担当の上村助手との二人三脚の調整の中で、きっとガイフウに気持ちが伝わったんですね。

 しっかりと乗り込まれ、ウッドコースではすごくきれいな走りができるようになったメイショウガイフウ。まだワンペースなところもあるため、いきなりからはどうかなということでしたが、母キンショーユキヒメも当初はビュッと切れないイメージから成長につれ末脚が持ち味にと変わっていった馬です。

「ガイフウは先生(角田調教師)がセリで選んで、オーナーに買っていただいた馬だと聞いています。お世話になっている先生の期待にも応えたいですね」

 そういいながら馬に寄り添う西原助手と一緒なら、きっといい成長をしていけると思いますし、私も応援馬券を買いながら彼の成長を見守っていきたいです。

著者:赤城 真理子